
何気なく立ち寄った書店でたまたま見つけ、カバーのデザインに惹かれて思わず購入した池上永一著『海神(わだつみ)の島』を一気に読み終えた。
那覇市出身の池上永一氏を一躍人気作家に押し上げたのは『テンペスト』だろう。主演仲間由紀恵でNHKドラマにもなり、映画化もされた。
彼の本のすべてが沖縄を舞台にしたものではないけれど、デビュー作の『バガージマヌパナス』や直木賞候補にもなった『風車祭(カジマヤー)』など、彼の著書の多くは根底に沖縄愛が満ちていて、沖縄出身でない者にとっては、沖縄出身というそのことだけで十分にうらやましいのだけれど、それをさておいても、池上ワールドにぐんぐん引き込まれるほど面白い。
さてこの『海神の島』は、最愛のオバァの遺言である秘宝を探し当てようとする三姉妹の奮闘を描いた物語だ。
長女、次女、三女ともに個性派ぞろいで仲が悪い。それぞれの個性を活かしてお宝に迫っていく。その途中にはお色気あり犯罪あり放送禁止用語すれすれありの池上ワールド全開で、なかには眉をひそめる向きもあるだろうが、私は大好きだ。
最後は大方の予想を覆す相続人が、大方の予想を覆してハッピーエンド?で終わる。
しかしこの物語の根底に流れるストーリーは相続争いでは決してない。琉球の歴史、基地問題、領土問題などの社会問題を、これでもかというほど読者に投げかける。
話は変わるが、我々夫婦は沖縄に移り住んでやりたいことがたくさんある。そのひとつが沖縄の歴史を学ぶことだが、夫はさらに水中考古学にも興味をもっている。
そんな我々の知的好奇心をくすぐるまたとない一冊となった。